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2014年9月26日

意外と知らないお茶のあれこれ お茶どころの茶園と製茶現場に行ってみました!

日本を代表するお茶の名産地・静岡県島田市の茶園や加工場、お茶の博物館などにおうかがいして、お茶についてじっくり勉強してきました。※今回のMogu・Magaでご紹介するお茶は緑茶に限定しています。

「この茶園からおいしいお茶ができるですね~」(こくさん)
「この茶園からおいしいお茶ができるですね~」(こくさん)
静岡の茶園のはじまりは明治時代から

生産・流通面ともに国内有数のお茶の産地である静岡県島田市。市の中央を流れる大井川の右岸、牧之原台地には面積が約5,000haもある日本一の大茶園が広がっています。かつて、明治維新によって移住した旧藩臣や、明治新政府によって川越し制度が廃止され職を失った大井川の川越し人足(橋のない大河で、人を肩や乗り物に乗せて川を渡すことを職業とした人)たちによって、ここでの茶園開拓がはじまり、その後、茶園は農民が継承していきました。やがて問屋や機械メーカーなどの参入により、茶葉の収穫は手摘みから機械へ、製法も手揉みから機械へと変わり、近代化が進むとともに、生産効率の向上や品質の安定化が実現し、日本を代表するお茶の産地となりました。現在、この大茶園では島田茶、金谷茶、川根茶の3つの銘茶が生産され、全国に流通しています。

伝統的な農法が世界農業遺産に

乾燥した草をうねの間の土にかける
乾燥した草をうねの間の土にかける

静岡の茶園で特徴的なのが『茶草場(ちゃぐさば)農法』。茶園の周辺に点在する人の手で維持管理された半自然草地のことを『茶草場』といい、ここで育ったササやススキなどの草を秋に刈り取り、それを束ねて干して乾燥させ、茶園のうね(茶樹を植えるために細長く直線状に土を盛り上げた所のこと)とうねの間に敷く伝統的農法が『茶草場農法』です。乾燥した草が有機物となって土質が改善される、土壌の保湿に役立つなどの特徴から、高品質なお茶の栽培に効果があるとして、いまもこの農法が継承されています。

もうひとつ、茶草場の大きな特徴として300種類以上の生物が観測されています。中には固有種や絶滅危惧種も含まれており、手間ひまかけたお茶づくりへのこだわりが、結果的に多様な生物を守ることにつながっているのです。
このように農業と生物多様性が同じ方向を向いて両立していることが評価され、平成25年に世界農業遺産に認定されました。

栽培から機械加工まで製茶の作業は幅広い

「松本さんの茶園は大井川が見渡せて眺めがいいです~」(こくさん)
「松本さんの茶園は大井川が見渡せて眺めがいいです~」(こくさん)

茶園を営む松本英治さんと、東京でお茶の商品開発に取り組む次女の松本淳代さん
茶園を営む松本英治さんと、東京でお茶の商品開発に取り組む次女の松本淳代さん

今回、金谷茶の茶園『茶景園(さくらえん) 』を営んでいる松本さんの茶園と加工場におじゃましました。松本さんは約4haの茶園でお茶を栽培し、主に問屋へ流通する荒茶(畑から摘んだ葉を一次加工したもの)を製造しています。

まずは茶園へ。半円に刈られた茶樹がうねに沿って続く茶園ならではの風景が広がっています。緑のじゅうたんが敷き詰められたような茶園の至るところに鉄柱が立っているのですが、これはいったい何でしょう。松本さんにお聞きしました。

新芽を霜から守る防霜ファン
新芽を霜から守る防霜ファン

「これは防霜(ぼうそう)ファンといいます。新芽が出てくる3月~4月、このあたりは遅霜がおりることがあります。霜がおりると、せっかくの新芽が凍って腐ってしまう。それを防ぐために、気温が3℃まで下がると自動的にファンが回って風を起こし、地表と上空の温度差をなくすことで霜よけをしているのです」
お茶にとって霜は大敵なのだそうです。

新芽が出たらいよいよ摘採期(つみとる時期)。松本さんの茶園は平坦地にあるため、乗用式の大型茶刈機で摘みます。

乗用式茶刈機でうねに沿って新芽を摘採する
乗用式茶刈機でうねに沿って新芽を摘採する

次に加工場を見せていただきました。製造の各工程ごとに専用の製茶機械を使用するため、何台もの大型機械が所狭しと並んでいます。摘みたての生葉がここに運ばれ、荒茶製造がスタート。

中揉機。とても重々しい機械だが、実はこの中で茶葉を揉み込む繊細な作業が行われている
中揉機。とても重々しい機械だが、実はこの中で茶葉を揉み込む繊細な作業が行われている

1)蒸熱
蒸気でむらなく蒸してから冷却する
2)粗揉
茶葉をかき混ぜたり揉んだりしながら、熱風で水分を蒸発させる
3)揉捻
内部水分を押し出して均一にする
4)中揉
味と香りが出るように加熱しないで揉み込む
5)精揉
揉みながら乾燥させ、茶葉を針状に細長くする
6)乾燥
熱風で茶葉の含水率を5%程度まで乾燥させる
7)袋詰め
袋詰めされたものが問屋へ出荷される
こうして生葉を約5時間かけて荒茶に仕上げるそうです。

「毎春、いい新芽が出てくるまで心配ですね。そこから繁忙期に入りますが、秋に収穫を終えてからも来年のために整枝の作業があります。また、4~5年ごとに台切り(だいきり)といって葉をすべて刈りとることもします。これは枝の高さを揃えるとともに、茶樹の若返りをさせるためですが、かなり大がかりな作業です。加工場での仕事も、生葉の状態によって加工時間や温度を調整するなど、機械任せにはできません」と松本さんは語ります。

茶園での栽培から加工場での製造まで、荒茶の製造は幅広い知識とノウハウが必要なんですね。

お茶の種類はこんなにいっぱいある!

左から時計回りに煎茶(新茶)、ほうじ茶、番茶
左から時計回りに煎茶(新茶)、ほうじ茶、番茶

そもそもお茶にはどんな種類があるのでしょうか。さまざまな分類があり、分類ごとにたくさんの種類があるそうなので、その中から茶葉の製法の違いによるお茶の種類を松本さんに教えていただきました。
栽培方法や製茶方法の違いで、色も味わいも異なるお茶に仕上がるそうです。

・煎茶
 代表的なお茶で、茶葉を蒸した後に揉みながら乾燥させたもの
・深蒸し煎茶
 煎茶の蒸し時間を長くし、渋みを抑えてまろやかにしたもの
・番茶
 製法は煎茶と同じで夏~秋摘みの固めの葉や茎を原料としたもの
・玉露
 茶園を20日間ほど覆って日光の量を制限して旨味を増すように栽培する高級茶
・かぶせ茶
 遮光期間が玉露より短い1週間前後で、茶園全体ではなく茶樹に直接遮光幕をかぶせる
・玉緑茶
 煎茶とは揉み方が異なるため丸い形で「ぐり茶」ともいう
・てん茶
 玉露と同様の栽培方法だが、茶葉は揉まずに乾燥させる
・抹茶
 てん茶を石臼で挽いて粉末にしたもの
・ほうじ茶
 煎茶や番茶、茎茶を強火で炒ってこうばしい香りを出したもの
・玄米茶
 煎茶を高圧で炒って米などを混ぜたもの

松本さんの茶園では主に煎茶・深蒸し煎茶を栽培、加工しています。

茶樹は冬の間は成長がとまり、栄養分を葉や根にしっかりとため込み、春になるとその栄養分をたっぷり新芽の中に集めながら成長していくそうです。4月下旬から5月上旬、その年の最初に伸びた新芽を摘採してできたものが新茶(一番茶)です。“夏も近づく八十八夜~”の歌にもあるように、立春から88日目に当たる頃が新茶の摘採期なのだとか。新茶は旨味成分のアミノ酸を多く含み、柔らかくて香りが高く、もっとも高品質なお茶になります。その後、約45日後に摘採するのが二番茶、さらに約40日後に摘採するのが三番茶。そして9月下旬、その年の最後に摘採するものを秋番茶(四番茶)というそうです。

「気候によって茶葉の状態も変わってくるし、荒茶を焙煎する火加減によっても味や香り、色が違う。ひとつとして同じお茶はないんです」と松本さん。用途に合わせて飲み分けたり、飲み比べてみるのがいいのではないでしょうか。

貴重な手もみ茶の工程を見学しました!
「『お茶の博物館』では、お茶のことを学んだり体験できるです~」(こくさん)
「『お茶の博物館』では、お茶のことを学んだり体験できるです~」(こくさん)

「和服のお姉さんに抹茶をたててもらえるです~」(こくさん)
「和服のお姉さんに抹茶をたててもらえるです~」(こくさん)

こうしたお茶の歴史や種類などを学べるのが『お茶の郷博物館』。見学コーナー以外にも石臼を挽いて抹茶をつくったり、茶室で抹茶と和菓子をいただくなどの体験もできます。また、お茶にまつわるさまざまなイベントも開催されています。

この日は手揉み茶の講習会が行われていたので、見せていただくことになりました。現在はほとんどが機械による製茶で、手揉みのお茶は品評会や献上茶など特別な場面だけの貴重なものとなっており、その技術をもった人も少なくなってきているそうです。そのため、昔ながらの技術を伝承していこうと定期的に講習会を行っているのです。

手揉みの作業台は『焙炉(ほいろ)』といい、下にガスバーナーを置いて弱火で加熱しながら作業をします。茶葉を置いている部分は和紙を貼り合わせてできています。実際に見学しながら手揉みの手順を教えていただきました。

「これが葉振い。職人の技ですね~」(こくさん)
「これが葉振い。職人の技ですね~」(こくさん)

1)蒸し
摘みたての茶葉を蒸し器で蒸し、葉を冷ます

2)葉振い
蒸し上がった茶葉を焙炉の台に置き、すくい上げて落としながら水分を飛ばす

回転揉みは、かなり力を入れる
回転揉みは、かなり力を入れる

3)回転揉み
台の上で茶葉を左右に転がしながら力を入れて揉み込んでいく

4)中上げ
いったん茶葉を焙炉からおろし、焙炉の台を掃除して茶渋を取り除く

こくりの作業では茶葉を握る力加減が大事
こくりの作業では茶葉を握る力加減が大事

5)揉み切り
茶葉を焙炉に戻し、茶葉を両手で挟んですりあわせてよれた形にしながら乾かしていく

6)転繰り揉み
茶葉を揃えて両手ですりあわせ、茶葉を針のように細長く伸ばす

7)こくり
茶葉を両手で握りしめて形を整え、光沢を出す

茶葉を広げて乾燥。まん中に穴をあけることで、熱の通りが良くなり早く乾燥するそうです。
茶葉を広げて乾燥。まん中に穴をあけることで、熱の通りが良くなり早く乾燥するそうです。

8)乾燥
茶葉を薄く広げて乾かし、時々茶葉を集めて広げ直しながら、まんべんなく乾燥させていく

完成まで約5時間、含有水分は80%から最終的には5%になり、2kgあった茶葉はなんと500gにまで減るそうです。手の感覚と力加減で完成度が左右される手揉みは、職人の技。仕上がった茶葉の針のような形と深緑の艶が美しく、芸術的とすら思いました。こんな貴重なものを見せていただき感動です!

急須に茶葉を入れてお茶を飲もう!

これまでお茶は日本の生活の中にしっかりと根をおろしていましたが、昭和40年代をピークに茶葉の消費量は下落が続いています。とくにペットボトルやティーバッグなど手間をかけずに飲める商品が普及したことで、急須に茶葉を入れてお茶を飲むという機会が減っているようです。
「茶殻の処理がめんどうだという声をよく聞きますし、いま急須でお茶を入れる方法さえ知らない人が増えているんです」
と松本さんも嘆いています。

『日本茶 ひといき』は店内もお洒落な雰囲気。
『日本茶 ひといき』は店内もお洒落な雰囲気。

もちろん茶業を営む人たちも、ただ手をこまねいているわけではありません。松本さんの荒茶を仕入れ、こだわりの製法で仕上げたお茶を販売している石川製茶の直営店『日本茶 ひといき』におじゃまし、お茶の消費拡大に向けた取り組みを見せていただきました。

「お茶の香りがしておいしいです~」(こくさん)
「お茶の香りがしておいしいです~」(こくさん)

お店では、煎茶ソフトクリーム、煎茶かき氷、煎茶ロールケーキなど、煎茶を使ったさまざまなスイーツを扱っています。ソフトクリームもロールケーキの生クリームも、抹茶のものより渋味がなく、香りがあって軽やかなおいしさ!
また、急須離れの現状から、お湯に溶かすだけで飲める顆粒タイプのお茶を開発・販売したり、パッケージをモダンなオリジナルデザインにしたり、お洒落な茶器を扱うなど、お茶の普及にさまざまな工夫をこらしています。

近年では、健康志向を背景にお茶が注目を浴びてきています。お茶に含まれるさまざまな成分が健康によい影響を与えていると考えられているからです。とくに健康に良いとされる成分の代表がカテキン。これはお茶の渋味の主成分で、悪玉コレステロールを低下させる、体脂肪を低減させる、虫歯を予防するなどの効果があるといわれており、ガン予防への効果も研究が進んでいるそうです。
さらに、和食のユネスコ無形文化遺産登録でお茶への関心が高まって、お洒落なお茶カフェは若い女性に人気があり、今回伺った『お茶の郷博物館』は海外からの観光客などにも人気があるようです。

こうした新しい取り組みや流行などをきっかけとして、お茶をもっと身近に楽しむ生活が定着していくといいと思います。
本来、お茶は昔から日本人が愛飲してきた日本の文化そのもの。古くて新しいお茶の魅力を学んだので、きちんと急須に茶葉を入れて味と香りを楽しみながら、ゆっくりお茶を飲んでみます!

(Mogu・Maga編集部)
取材協力:茶景園(さくらえん)、お茶の郷博物館、石川製茶