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2015年3月26日

ヨーロッパでは高級食材? 日本のジビエを調べてみました!

皆さんは『ジビエ』って知っていますか?ヨーロッパではよく知られる高級食材ですが、日本ではまだ馴染みの薄いこのジビエについて取材するため、長野県に行ってきました。

「ジビエ料理は初めてですが、とってもおいしそうです~」(こくさん)
「ジビエ料理は初めてですが、とってもおいしそうです~」(こくさん)
日本のジビエ料理の歴史と現状

ジビエとは、フランス語で狩猟によって捕獲されたシカやイノシシなどの野生鳥獣の食肉のこと。ヨーロッパでは高級食材として珍重され、ジビエ料理は貴族の伝統料理として発展してきました。いまでもフランスやイタリアなどでは、秋から春先にかけての狩猟時期になると多くの人がジビエ料理を求めてレストランを訪れます。

ヨーロッパだけではなく、日本でもシカを食してきた歴史があります
ヨーロッパだけではなく、日本でもシカを食してきた歴史があります

スウェーデンのストックホルムで開催されるノーベル賞受賞者のための晩餐会で、メインディッシュにシカ肉が使われるのも有名な話です。
一方、日本でも狩猟によってシカやイノシシなど野生の獣肉を食してきた歴史があります。しかし、明治以降は食べる機会が減り、シカ肉を使ったモミジ鍋やイノシシを使ったボタン鍋などが郷土料理として残っている程度でした。

ところがここ数年、獣肉食が郷土料理としてではなくジビエ料理として、にわかにブームになってきています。全国的にはまだ馴染みが薄いものの、東京ではジビエ料理を専門とする飲食店やジビエ料理を扱うフレンチレストランなどが増えており、テレビや雑誌などでも取り上げられています。

長野県が始めたジビエの取り組み

山々に囲まれた長野県ではシカ肉料理が日常的に食べられています
山々に囲まれた長野県ではシカ肉料理が日常的に食べられています

そこで今回、ジビエ振興に向けて積極的な取り組みを行っている長野県で取材を行いました。

『信州ジビエ研究会』の三田さん
『信州ジビエ研究会』の三田さん

まずは『信州ジビエ研究会』へ。この研究会は、長野県内の野生鳥獣を食肉として活用し、地域振興に役立てるために2012年3月に設立されました。『信州ジビエ』に係わる民間事業者、研究機関、行政などと連携して信州ジビエのブランド化を目指しています。研究会事務局の三田毅(さんたつよし)さんにお話をうかがいました。

『鹿食免』を発行していた諏訪大社
『鹿食免』を発行していた諏訪大社

「長野県では、昔からシカ肉やイノシシ肉を日常的に食べてきました。なかでも県南部の諏訪地方は、獣肉食が禁忌とされた江戸時代にも、各地の諏訪神社の総本社である諏訪大社で狩猟の免罪符『鹿食免(かじきめん)』が発行され、シカ肉を食べることが許されていたそうです。こうした伝統的な食文化を見直すとともに、鳥獣被害から森林や農作物などを守り育てるために、県全体で信州ジビエ振興への取り組みを始めました」

シカに樹皮を食べられた木々
シカに樹皮を食べられた木々

長野県では、農林業被害が深刻化しており、2013年度の県内の野生鳥獣による農林業被害は約11億5千万円で、シカによる被害はそのうちの36%にも達しているのです。森林で樹皮を食べられた木々が立ち枯れしたり、農産物や高山植物が食い荒らされたり、さまざまな被害が激しくなっていることから、個体数を適正に調整するためシカの捕獲を行っています。

『信州ジビエ』ブランドで地域活性化へ

シカ肉は牛肉や豚肉と比較して脂肪が少なく低カロリーなのに高たんぱく、鉄分もほかの肉に比べて多いことがわかっているそうです。とはいえ、おいしくてヘルシーなだけではなかなか広まりません。
そこで信州ジビエのブランド化にむけて最初に取り組んだのは、長野県が2007年につくった『信州ジビエ衛生ガイドライン・衛生マニュアル』です。それまでジビエは衛生基準がなかったため、衛生的で安全な食肉処理、加工、販売を証明するためのルールづくりで安全・安心を訴える必要があったのです。

「いつか“ジビエといえば信州”となるまで浸透してほしい」と三田さん
「いつか“ジビエといえば信州”となるまで浸透してほしい」と三田さん

「その後、研究会を設立して信州ジビエマイスターの養成やワークショップ・商談会・料理教室などの開催、各地イベントへの出展などを実施してきました。こうした活動を通して、ジビエ料理の提供やジビエ加工品の販売など、会員の民間事業者も積極的に信州ジビエを扱うようになってきています。」
「2014年2月には『信州産シカ肉認証制度』として、審査を通った商品には認証マークを貼って、消費者が安心してシカ肉を購入できるようなしくみをつくりました。でも、まだまだ消費者の皆さんには浸透していません。もっと民間の力も借りてビジネスとして成立させ、“ジビエといえば信州”といわれるようになりたいですね」という三田さんの想いは長野県全体の想いでもあるのです。

料理人としてジビエ料理の魅力を広めたい

ジビエ料理ファンに知られるフレンチレストラン『オーベルジュ・エスポワール』
ジビエ料理ファンに知られるフレンチレストラン『オーベルジュ・エスポワール』

次に、信州ジビエ研究会のなかで料理人として信州ジビエ振興に積極的に取り組む方を紹介していただき、標高1300mの蓼科(たてしな)高原へと向かいました。

オーナーシェフの藤木徳彦さん
オーナーシェフの藤木徳彦さん

フレンチレストラン『オーベルジュ・エスポワール』のオーナーシェフであり、ジビエ料理を全国に広め地域活性化を実現するために自ら『日本ジビエ振興協議会』も立ち上げた藤木徳彦(ふじきのりひこ)さんです。まずはジビエ料理の魅力について語ってもらいました。

「1998年に店をオープンして以来、春は山菜、夏は高原野菜、秋はキノコと地産地消に徹していますが、冬は食材があまりなくて苦労していました。たまたま地元の猟師さんからシカの猟をするという話を聞いて、信州にもフランスと同じようなジビエの文化があると知り、修業時代に学んだジビエ料理の提供を始めたのです。地元で狩猟したものは生育環境や狩猟の様子が分かるので、安心して食材に使えます。シカ肉は脂肪が少なくヘルシー、野山を駆けめぐっているため運動量も多く肉本来の旨みが強くて栄養も豊富です。シカ以外にもイノシシ、アナグマ、野ウサギ、カモ、キジ、ヤマバトなどがあります。フランス料理の観点では、ジビエは山の恵みです。そして、鳥獣に感謝の気持ちを捧げて命のすべてをいただくという考え方でジビエ料理を提供しています」
さっそく藤木さんのジビエ料理をいただいてみました。本日のジビエ料理のコースは、シカ肉のサラミ、イノシシ・アナグマ・カモなどを使ったジビエのテリーヌ、シカ肉のポワレとアナグマ肉の炭グリル、ヤマバトを使ったパイ包み焼き。食べてみると、肉独特の濃厚な旨みが口のなかに広がります。テリーヌはいろいろな肉の食感や味が楽しめて、これぞジビエ料理というおいしさでした。

(左から)岡山県産シカ肉のポワレと鹿児島県産アナグマの炭グリルの盛り合わせ/国産ジビエのテリーヌ メリメロサラダ添え/国産シカ肉の自家製サラミ 信州リンゴの香り/信州産ヤマバトとフォアグラ・里芋のパイ包み焼き
(左から)岡山県産シカ肉のポワレと鹿児島県産アナグマの炭グリルの盛り合わせ/
国産ジビエのテリーヌ メリメロサラダ添え/
国産シカ肉の自家製サラミ 信州リンゴの香り/
信州産ヤマバトとフォアグラ・里芋のパイ包み焼き
ジビエ振興で森林と農家と食を守っていく

シカによる農林業被害について尋ねると
「被害は本当に深刻です。私がジビエを広めようとしているのは農家さんを助けたいから。“大変な仕事だから子どもには継がせたくない”とか“せっかく作った作物が鳥獣被害を受けたのでもう農業は辞めたい”と農家さんたちが口々に言っています。このままでは、いつも食材を提供してくれる農家さんがいなくなってしまい、うちの店も地産地消ができなくなってしまうのです」
と、日頃から生産者の方々とふれあっている藤木さんならではのお言葉。ご自分のお店でジビエ料理を提供するだけではなく、ジビエに関する料理教室や講習会を開催したり、全国各地で地域の食材をジビエ料理に活かすアドバイスを行うほか、さまざまな企業と連携して新たなジビエ料理を開発しています。そんな藤木さんから見て、今後ジビエが全国的に広がっていくためにはどうすればいいのでしょうか。

シカ肉を無駄なく活用できるよう、新商品開発にも取り組む藤木さん
シカ肉を無駄なく活用できるよう、新商品開発にも取り組む藤木さん

「ひとつは価格です。シカの場合、飲食店がほしがる部位はほんの一部だけなので価格がどうしても高くなってしまう。だから、その他の部位を有効利用できるしくみを考える必要があります。もうひとつは品質規格です。牛肉のA5ランクのような誰もが分かる目安を全国基準にして、いずれはスーパーで買って食べる第4の食肉にしたいですね」
と藤木さんの目標は実に明確でした。

狩猟から料理まで手がけるハンターシェフ

「今度はどんなジビエ料理が食べられるか楽しみです~」(こくさん)
「今度はどんなジビエ料理が食べられるか楽しみです~」(こくさん)

続いて、ジビエ料理を手軽に食べられる茅野市のレストラン『匠亭』におじゃましました。

ハンターシェフの青木さん
ハンターシェフの青木さん

ここはモミジ鍋などの郷土料理でもなく、高級フレンチでもなく、ステーキやハンバーグ、カレー、唐揚げなど身近なメニューにシカ肉を使っているのが特徴です。しかも、オーナーの青木和夫さんは狩猟免許をもち、自ら処理施設も所有して捕らえたシカを処理し、料理として提供するハンターシェフです。

店内には『鹿食免』が祀られています
店内には『鹿食免』が祀られています

「猟師としての腕、肉屋としての腕、料理人としての腕、どれも大事だね。射撃のしかたや手際よい処理ができるかどうかで肉の味が左右されるし、どの部位がどんな料理に合うかなど全部やっているとすべて分かるんだ」と青木さん。信州ジビエ研究会のなかで信州ジビエのブランド化に貢献するとともに、『鹿食免』の歴史をアピールしながら『鹿食免料理』として地域おこしの立役者にもなっています。

「匠亭さんのジビエ料理もみんなおいしそうです~」(こくさん)
「匠亭さんのジビエ料理もみんなおいしそうです~」(こくさん)

ここでも、シカ肉の料理をいただきました。2週間以上も熟成させたシカのロース肉のステーキやオリジナルのタレに漬け込んでじっくりと燻製にしたシカ肉のスモーク、シカ肉を柔らかくなるまで煮込んだカレー、牛肉の脂身を加えて成形したシカ肉の串焼きなど、肉の旨みがたっぷり味わえるおいしさでした。

「ジャーキーやサラミなら手軽に食べられるです~」(こくさん)
「ジャーキーやサラミなら手軽に食べられるです~」(こくさん)

青木さんは加工・販売の会社もつくり、シカ肉のジャーキーやサラミ、大和煮を県内のサービスエリアや道の駅、お土産店、諏訪市内のホテルなどで販売しています。
「ジビエによって冬の信州が観光客でにぎわってくれることを願っています。簡単に食べられる加工品で、まずはジビエを味わってみてほしい。そのために自分一人で6次産業をやっていますよ」
と笑う青木さん。

ハンター姿がかっこいい青木さん
ハンター姿がかっこいい青木さん

これから狩猟に出かけるということで、ハンター姿も見せてくれました。なんともかっこいい! 11月15日から2月15日までの狩猟シーズンには、この姿で何度となく山に行くそうです。

ジビエ料理を国産食材活用法のひとつに

「こうした山々でシカさんの狩猟が行われているです~」(こくさん)
「こうした山々でシカさんの狩猟が行われているです~」(こくさん)

ジビエ料理はまだ日常的ではありませんが、“命をいただく”という点で普段食べている牛肉・豚肉・鶏肉料理と同じであり、増えすぎてさまざまな被害をもたらす野生鳥獣の肉を食べることは被害防止にも貢献します。とくにシカ肉は処理方法などの向上によりクセのないおいしさを堪能できるようになったこと、ヘルシーなこと、安定供給できることなどから私たちがたくさん消費して、もっと身近な食肉になればいいなと感じました。
長野県が信州ジビエのブランド化に向けた取り組みをはじめて以降、全国各地でもジビエ振興の動きが広がってきていますので、レストランで食べてみたりお土産店などで加工品を買ってみたりして、ぜひとも国産ジビエを味わってみてください。

(Mogu・Maga編集部)
取材協力:信州ジビエ研究会オーベルジュ・エスポワールカントリーレストラン匠亭